社長エッセイ

【部長シリーズ第5回】農村開発部:私にとっての「挑戦」

私は「挑戦」という言葉があまり好きではありません。のっけから読者の読む気を削いで申し訳ないと思いますが、そう思うのだからしょうがありません。理由ははっきりとは説明し難いのですが、敢えて理由を探せば「挑」んだり、「戦」ったりする、という響きが何か自分と相容れないと感じます。我々の仕事には競争はつきものだし、そうなれば勝ち負けという結果からは逃れられません。それをして「戦」いといえなくも無いのですが、競争相手に勝つための工夫や努力は、あくまで受益者に貢献するための一過程というふうに私の中では位置づけられています。それが「挑戦」という文言に対する違和感の源なのでしょう。

じゃあ挑戦しないのかというと、そういう訳ではなく、私がするのは「チャレンジ」です。なんだ同じことじゃないか、と思うかもしれませんが、そこにはひたすらポジティブで楽しげとも言える響きがある(と感じます)。チャレンジャーは(恐らく)、チャレンジするにあたり、それをやりたくてしょうがない気持ちに溢れ、そのためにどのような苦労も笑みさえ浮かべて乗り切り、周囲もそれを温かい目で見守り励ます、という情景が目に浮かびます。仮に失敗しても、必ず立ち直り新たなチャレンジに向かうモチベーションが尽きることはないのです。なぜならチャレンジ自体が充実したプロセスだから。もちろん、周囲も結果がどうあれそのチャレンジを称賛しねぎらう気持ちに溢れています。これはあくまで私のチャレンジに対するイメージですが、KMCにおけるチャレンジはこうあってほしいと願っています。

ここまで勝手なことを言わせていただきましたが、かくいう私はどの程度チャレンジしてきたのでしょうか。思えばKMCに入社したてのころは、ほぼ全ての仕事(業務内容も国も)が未知、未体験だったので、それはもうチャレンジの連続でした。それでも臆せずどんな仕事でもやってやろう、と思い、実際なんでもやらせてもらったものです。そうやって仕事の幅を広げ、経験値を高めてきました。当時は、できるだけ行ったことのない国で仕事をしたいとまで思い、年始に「出張したい国リスト」を作っては、どの単独型案件に応札するか検討する際に参照したりしました。ただそのうち、同じ分野の仕事を何度か経験したり、技プロのように長目の仕事にも従事するようになってくると、特定の業務内容や国に対する思い入れも強くなってくるものです。この仕事を、あるいはこの国での業務をもっと突き詰めたい、ということです。確かに業務内容や国が同じであれば、それまでの経験がかなり活かされるので、もうスタート地点が全然違います。同じMMでもより高いところまで行ける、と実感します。クライアントもそれを分かっているから類似業務や同じ国地域の経験を高く評価するのでしょう。実際、類似経験が無理なく3件書けるようになると、仕事の受注率も上がっていきました。
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しかし、その結果として他の分野や国の仕事に対する関心が薄くなりました。新しい分野の仕事は面倒だ、苦労したり失敗するのも嫌だし、そもそも自分の専門分野はこれだから、などと考えるようにもなりました。一言で言えば、保守的になった、頭がずいぶん固くなったということですね。繰り返しになりますが、KMCに入社した30台後半から40台前半くらいまでは、これといった経験も専門分野もないけれど、何でもがむしゃらにやっていました。なぜそうできたのでしょうか。まずコンサルタントになって念願だった途上国開発の仕事をバリバリやれる嬉しさ、というのは確かにありました。他に考えられるのは、当時は自分の得意なことやできることがよくわからなかったからだと思います。どんな種類の仕事も経験不足だったので、難易度という点で自分にとってそれほど違いがなかったのです。今ではコンサルタントとなって14年、自分の得意分野とそうでもない分野を十分認識するに至りました。得意分野を活かして勝負する戦略は、ビジネスに於ける常道ですが、それだけではこの変化の激しい社会では生き残ってはいけません。昨年仕事がめっきり減って、ここまでは認識せざるを得なかったのですが、この先どうすれば良いのかはなかなか見えてきませんでした。
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ところが、最近どう自分を変えていくのかが見えてきました。きっかけは簡単、とにかくいろんな業務をやってみること。何事もやってみないとよく理解できない私らしいです。現在従事している政策アドバイザー業務は極めて多岐にわたり、その多様さは通常の業務ではまず経験できない程です。主な業務だけで、①農業基礎調査、②コメ分野調査、③パーボイル手法普及、④稲籾品質基準普及、⑤精米プラント運営指導、⑥SHEP活動推進、⑦IFNA推進、⑧栄養改善技プロ準備作業、⑨帰国JICA研修員の活性化、⑩日系企業進出促進、などに加え上記②、⑥分野と草の根無償の案件形成もある。実は、これらはナイジェリア事務所が所掌している農業分野の業務のほぼ全て。事務所の方の大変さを身を持って感じています。これらのうち、半分は全く経験のなかった仕事で、日々是チャレンジしています。長々と回りくどく書いてしまいましたが、要は久々に未経験の業務をやってみて、新たな自分の可能性に気づけたし、新たな分野の業務に従事する楽しさを実感している、ということです。ちなみに新たな分野の業務に際しては、もちろん勉強は欠かせませんが、自分の得意分野を軸に業務を展開する(仕事をなるべく自分の土俵に持ってくる)、ことを意識しています。少しは年の功を使わせてもらってもバチはあたりませんよね。

このご時世、チャレンジしなくてはならないことはわかってはいますが、そうは言ってもしんどいし、失敗の確率も高いので、言うは易し行うは難し、と思いませんか?一方で、何事もとりあえずやってみる、というのも大切です。KMCの社員も、というか現場で仕事をするコンサルタントは、「まずはやってみる」という考え方は、理解できるのではないでしょうか。実際、チャレンジもやりつけていると、チャレンジぐせがついて、ちょっとしたチャレンジではもうチャレンジングと思わなくなったりもします。小さなこと、些細なことでも良いので、チャレンジし続けること(考えるだけではダメ)が、自然とチャレンジ体質を形成するのではないでしょうか。私は何事もスポーツに例えるのが好きですが、この場合はボクシングでしょうか(ややムリヤリ感あり)。つまり、常に動き続けることによって相手に攻撃の的を絞らせず、こちらも相手の隙きを突くことができる。逆に動かなければ良いように打たれ、反撃の糸口も掴めないままKO負け、ということです。「転がる石に苔つかず」といいますが、私も足が活きている限り動き続けて(チャレンジしつづけて)いきたいと思います。