社長エッセイ

これからの開発コンサルト業界と私たち

 外交にあまり関心のなかった小泉さんから(といっても私は小泉支持派ですが)安部さんに代わったこともあり、ODAが今後どうなっていくのか気になりますね。皆さんご承知のようにODA予算は年々縮小しており、1997年は1兆2000億円、今年度予算は7600億円ですから、ピーク時に比べれば約6割強まで著しく削減されてきたことになります。「小さな政府」、「歳出削減」を目指す日本としては、ODA予算も例外ではなく、これからも継続して削減する方針が打ち出されています。我々としては、安部さんが真に改革路線を継承するのであれば、外務省や関係団体がいくらアピールしてもODAが聖域化することはもはやない、という覚悟でいた方が良いのでしょう。国際テロ問題で、ODA額を増額する傾向にある欧米先進国からのプレッシャーはあるでしょうが、これだけの借金を抱えてしまっては国内での削減プレッシャーも相当に強いわけで、日本政府として「ない袖はふれない」と言われてしまえばそれまで、なのかもしれません。

 さて、そうなると当然ODA業務の受注競争激化です。私自身これまで、いくら予算が削減されてもそれは大型施設モノが減っているため、その一方でソフト分野は追い風、額も増加傾向にある、と考えてきました。確かにそうした傾向はまだもうしばらくは続くでしょう。それに合わせてKMCの売上もまだまだ伸びていくと思います。ただ予見できることは、さらに減少するパイの取り合いはソフト分野でも避けられなくなる、ということです。ODA予算がこれだけ減っているので、すでに退場した企業やコンサルタントも少なからずいます。その一方でこれまでハード系といわれていたコンサルタント企業(私自身はエンジニア企業と呼んでいます)が、生き残りをかけてどんどんソフト系の人材を充実させている。つまりこれまで我々の連携相手だったのに、いつの間にか競合相手になりつつある、ということです。そうした中で我々はこれからどう備えていけば良いのでしょうか。

 少し別の角度からも話をします。特にアフリカで仕事をするとよく感じること、それは援助協調という名の下に起こっているバイの援助のマルチ化です。つま り、バイの援助のやり方が援助国の間で統一され、それがコモンバスケット方式、さらにはセクター財政支援から一般財政支援へと進む流れです。今のところ日本は反対していますが、DACでは決まっていることもあり、この流れが逆行することはないのではないかと思います。こうした流れの中で沈黙していれば、日本はいずれどの国も手を出さないセクターを割り当てられるか、資金だけを出すことにもなりかねません。結局、日本のODA資金がバスケットの中に入ってしまう、しかも参加できるセクターは限られている、そして受注するためには激しい競争がある。なにせ世界中のコンサルタントと競争するわけですから。しかもすべて英語での世界、なかなかネイティブレベルとはいかない我々多くの日本人の英語力で果たして太刀打ちできるのかどうか。JICA公示案件に応募するのとはぜんぜん訳が違いますね。

 つまり日本におけるパイの減少とソフト分野における競争激化だけではなく、途上国でも日本の資金を使いながら日本のODA業界は温存されなくなりつつあるということです。もう一つ追い討ちをかける話をすれば、日本のODA市場の閉鎖性、実は我々はこれに守られているわけですが、それもいつまで続くのか分からない。これを守ろうと必死に防戦している、と外務省の方は言っていました。それでも、自由化は世界の潮流ですし、それに例えばそのうちJICAに提出するレポートはすべて英語になって日本語レポートは不要になる(?)でしょうから、その時は他国にODA事業の門戸を開いても良いのではないか、というより「いい加減に門戸を開け!」という日本への要求がますます強まるはずです。そのときにも果たして我々は守られた存在でい続けることができるのかどうか。

 と、こうやって書いていると、ソフト分野は追い風だ、と良い気になり続けていることはとてもできないことがよく分かります。もう一つ辛辣で率直なことを書きます。色々な問題があるのは事実ですが、途上国の政府や人々が望んでいるのはどうしたってハード、つまりハコモノです。それをこれまで日本人の超一流のものづくり技術が支えてきたわけです。その成果として、良くも悪くもハードは目に見える形として残すことができた。最近はハードがうまく使われていないという理由もありソフト化が強まってきているのは確かですが、それではいったい、我々ソフト系コンサルタントは何が残せるのでしょうか。報告書?確かにそれは重要です。ただそれは途上国の開発に真に役立ててもらえる報告書でなければならないはずです。でも実際には、クライアントのニーズを無視した自己満足型レポートのなんと多いことか。一生懸命時間をかけて調査し執筆する。その結果分厚くなるばかりで役に立たないから自分以外の誰も読まない、ということが相変わらず起こっているわけです。もっとひどくなると、報告書さえ満足に書けない、出せない、その結果クライアントからはイエローあるいはレッドカード。結局、コンサルタントは食っていけなくなって退場、です。こんなことを続けていてはソフト系コンサルタントはそのうち見向きもされなくなる。そしてともかく、競争激化にともない、求められる成果が出せないようなクオリティの低いコンサルタントは淘汰されていくことは間違いのないことだと私は感じています。

 さてKMCの社員各位。そうしたことを考えると、もし本気でこの業界でずっとやっていくつもりなら、道は一つしかありませんね。腹を括ってもらうしかないようです。決して平坦ではない将来が待っている可能性が高いということですから。それならそれで、少しでも追い風の今のうちに、もっと真剣に力をつけていきましょう。日本が世界に誇る超一流のハード技術に匹敵するような能力を我々も身に着けなければならないと思います。そう腹を括れただけ人がKMCに集まり切磋琢磨できれば結構だと私は本気で思っています。セカンドギア2年目に入った今、会社としてもこうした考えをどんどんと前面に出していこうと考えており、少なくともその面では楽チンな会社になっていくことはないでしょう。それは、ともかくお互いに生き残っていけるよう、一緒に真剣にやっていくしかない、そのための基盤づくりだと考えているからです。

 最後に、これからのODA、ソフト系コンサルタントとして我々は少なくとも何を身につけていなければならないのか。それぞれ専門分野は違うでしょうが、それに加えて共通するのは自分のレポートなり、仕事に取り組む姿勢なり、プロ意識なりで人にインパクトを与え、最後には相手を自分の思う方向に巻き込んでいける能力だろうと思います。そのために、当たり前ですが、「手段」として例えばまず内容の濃いしかも読んでもらえるレポートを書くことや、自己責任と自己管理でプロフェッショナルらしい仕事をしたと相手に評価してもらうこと、調査や対話をしながらクライアントや住民が抱える問題を解決し喜んでもらうこと、ワークショップのモデレーターなりで住民に自立心を持たせ行動を起こしてもらうこと、などなど。結局自分自身をプロフェッショナルのソフト系コンサルタントとして確立させていくためには、こうした能力も培っておかなければならないと私は思っています。これからのKMC、こうしたコンサルタントがどんどん増えてくれることを期待しつつ。それでしっかりと乗り越えていきましょう。