社長エッセイ

信頼感

 農村開発の専門家として、これまで色々な国の色々な農家の人たちと話をしてきました。彼らに「問題は何か」と問えば、必ず聞かれる答えの一つが「農業収入が低い」ということです。問題系図ではこれがほぼ定位置のようにcore problemに置かれます。これに加えて時々「農業収入が安定しない」ことも問題だ、という声が交じります。当初、これを聞いた私は、”それなら農業収入が高い時もあるということでしょう。それがなぜ問題なの?”とよく分かりませんでした。ところが後になって、農民にとっては収入が高ければ良いというわけではない、予測できないことこそが問題なのだ、ということに気付きました。

 がらっと話が変わりますが、皆さん、床屋なり美容院なり、ほぼいつも同じところに行きますよね。毎回あえて店を変える、なんて人はまずいないだろうと思います。その理由は、この店でやってもらえばほぼ希望するような髪型にしてくれる、あるいは少なくともどんな髪型になりそうか予測ができるということです。知らない店にいって、どんな結末になるのか分からない、といったチャレンジをすることはなかなかできないわけです。私のように安い床屋にいくと、その都度誰が髪を刈るのかが分かりません。そのため結果にはもともと期待できないと予測しているので、まれにひどい髪形になってもがっかりはしますが、それでもまあ仕方がない、次回もここに来ようとなるわけです。まあ、もしそれが頻繁に続くようだと、さすがに店を変えようという気になるでしょうが。

 さて、ここで言いたかったことは、‟結果が予測できる”ということが相手の信頼感につながる、ということです。KMCという組織がずいぶんと大きくなってきている、それにつれて色々な仕事を依頼されるようになってきている。中にはけっこうチャレンジングな仕事、難しい仕事もある。それでも頼む側としては、KMCに頼めば、あるいはKMCの誰々に頼めばここまではやってくれる、ということが予測でき、かつ、その期待が裏切られない、だから仕事を頼んでくれるし、頼み続けてくれる。こうした流れをしっかりと継続させることができるかどうかが、これからのKMCにとっての大きな課題になってくるのだろうと思っています。信頼感を得ること、信頼感を裏切らないこと、そのための社員一人一つの努力がますます大切になってきた、ということです。

 誤解を恐れずに書けば、決して、(無理をしてでも)最高レベルのパフォーマンスを出そうとすることではない、ということです。最高レベルがいつでも出せれば良いですが、そうではないですよね。安定しない。周りとの軋轢も生みやすい。だから、それは必ずしも相手の信頼感につながるわけではないです。それよりもまずは、自分に期待された仕事、それがどんなレベルであったとしても、きっちりとやり遂げることが大事だということです。もちろん、いつまでも低空飛行のままじゃ困ります。 一つのことをやり遂げたら、その次は自分への期待値を少し上げていくようにチャレンジし努力すること。これを繰り返すことが成長です。

 社内でも同じことがいえます。私が誰かに何らかの仕事を頼むとします。頼む際には、この社員ならここまではやってくれるはず、この社員ならこのあたりの精度まで期待できる、この社員なら時間内になんらかの形にしてくれる、この社員なら1を伝えるだけで10近くを理解しやってくれる等々、あらかじめ何らかのレベルを想定(期待)しています。ここで、依頼する側としてあらかじめ考えていることは、‟ともかく頑張って、期待以上、最高レベルの仕事をしてくれ”ではなくて、‟あなたに頼めばここまでのレベルの仕事をしてくれるだろうと期待しているので、よろしくね。それ以上のことはこちらで何とかするから”ということです。信頼感ということはそういうことです。

 コミュニケーションが大事、報連相が大事、といわれますし、そのとおりだと思います。これは周囲に自分を予測してもらう、そうした状態を維持してもらう、ということでもあります。報連相がきちんとできないと周囲は不安になります。不安になると、結果としていくら素晴らしいレベルの仕事をしたとしても信頼感は生まれません。だからまず意識すべきは、周囲に対して自分を予測可能な存在にすること、そしてその予測に答えることで信頼感を持ってもらう、ということです。予測を超えたパフォーマンスも大事ですが、それは自分への信頼感が周りに根付いてこそ初めて生きるのだと思います。

 組織が大きくなりながらも、周囲からの信頼感を得続ける、それには私たち社員全員が予測(期待)可能な人材になるということではないでしょうか。今、全社員が、そうした意識を社内でより強く熟成させていく必要がある、そんな段階にKMCは来ているのだろうと思います。

 岡部