社長エッセイ

【部長シリーズ第2回】農村開発部長:共に歩むパートナー

さて今回のお題は「共に歩むパートナー」です。人によって色々な解釈があると思いますが、この巻頭言を書きながら私なりの「共に歩むパートナー像」を考えてみました。
まず言葉の意味からいきましょう。共に歩むパートナーを2つに分けると、「共に歩む」と「パートナー」です。前者は、対象者と一緒にどこかに進んでいく、前進しているというイメージです。後者の「パートナー」については、デジタル大辞泉で調べてみました。すると「共同で仕事をする相手。相棒。」という説明が最初に書かれています 。相棒、という言葉からは信頼感が感じられます。
では次に、KMCがパートナーとなるのは誰でしょうか?クライアントやC/P、受益者はもちろんですが、「共同で仕事をする相手」となると、かなり多種多様な人々が当てはまります。プロジェクト実施国の再委託先、傭人やドライバー、国内に目を移すと旅行会社や印刷会社を始めとした各種業者さんが該当します。個人の視点で考えれば、団内のメンバー、社内の同僚なども対象になりそうです。
KMCはこういう多種多様な方々と一緒に仕事をしているわけですが、どうすればこれらの人々にとって「共に歩むパートナー」たり得るのでしょうか。対象者が多くて目が回りそうなので、1例を挙げて考えてみることにします。私にとって一番考えやすいのは、C/Pの場合です。いつものクセでスポーツを引き合いに出した考察を試みます。
C/Pとの関わり方も、プロジェクトのフェーズによって異なると思いますが、プロジェクト初期の場合のパートナーとしては、マラソンのペースメーカーが思い当たります。ペースメーカーは大体30~35kmくらいまで、先頭に立って一定のペースでレースを引っ張ります 。なぜペースメーカーがつくのでしょうか。これは、他の選手との駆け引きしつつ自分でペースを考えて走るより、ペースメーカーの後について走ることにだけ集中した方が楽だからです。また、ペースメーカーの後を追うと、多少速いペースでもついていくことができます。
共に歩むパートナー、をGoogleで画像検索すると、結婚に関する画像が多かったです。
そのままレースに参加してゴールして良い場合もある。
プロジェクトの立ち上げ期において、コンサルタントはペースメーカーのような役割を果たすことが多いのではないでしょうか。常にC/Pの一歩先に立って計画を作成し、何をすべきかC/Pに提示し、方向を定めてC/Pをリードします。C/Pはプロジェクトに関連する新たな業務に四苦八苦しながらも、先導たる日本側になんとかついていく。そうこうしているうちにC/Pもペースにも慣れてくるものです。pasemaker
プロジェクト中期の業務では、サッカーで言うところのスルーパスを出すことを意識します。スルーパスは簡単に言えば空いたスペースに出すパスのことですが、そこに走り込んだ味方の選手に届くようなボールを出す必要があるので、難易度の高いパスです。この時、パスの出し手は受け手のスピードとセンスを正しく把握してパスを出すことが求められます。緩いパスや短すぎるパスを出すと敵にボールを取られてしまいますし、強すぎるパスや遠すぎるパスだと受け手が全力で走ってもパスに届かないということになります。人もボールも激しく動く中、一瞬の判断で全力で走り込む味方選手の足下にピタリと届くスルーパスを出すことは難しいですが、これが成功すると成果(得点)にも大きく近づきます。
プロジェクトも中期に差し掛かると、C/P機関もプロジェクトに慣れてきます。日々の業務から年間のサイクルまで一通り理解し、様々な活動を日本側との協働で実施することもスムースになってくる頃です。日本側の投入も多いので、プロジェクト活動が最も盛んなフェーズとも言えます。この時期私が留意することは、C/P機関の能力を最大限に発揮させることです。日本側からの知的インプット(技術移転)を最大化することによって、C/P側からの動的アウトプット(C/Pによる技術移転、研修など)もまた最大化するようにします。ここで大切なのは、受け手であるC/Pの能力とモチベーションを正しく見極めることです。つまり、プロジェクトからのインプットが多すぎても少なすぎてもC/Pの能力向上を最大化できません。頼んだ業務が難しすぎると、こちらに頼ることが増えたりひょっとするとやる気を削いでしまうかもしれませんし、逆に易しすぎればC/Pの能力向上に貢献しないばかりか、プロジェクトを軽く見てしまうかもしれません。プロジェクト活動にノって来たC/Pをよく見、彼らの能力を最大限に引き出せるような業務をピタリと出す、というパスの出し手としてのセンスが最も問われるのがプロジェクト中期だと、私は思います 。ただしこれを突き詰めると、日本側C/P側双方とも疲れてしまうので、その点は注意が必要かもしれません。
プロジェクト終期の最大テーマは自立発展性です。これまでC/P機関が日本側と一緒に実施してきたことを、自分たちだけで継続し、新しい地域に展開し、新たな分野やレベルに発展させることが求められます。技術的には、政策・制度作り、マニュアルやガイドラインの整備、TOTなど、自立発展性に必要なことはいくつもありますが、ある意味最も重要なことは、C/Pの自信、やる気、責任感、換言するとオーナーシップということでしょうか。これはプロジェクト終盤になって突然芽生えるものではなく、プロジェクト中期にどれだけC/P機関がしっかり活動し、プロジェクト活動から手応えを得られているかにかかっています。例えば、専門家と一緒に時間をかけて準備した研修が成功し、その研修に参加した農家から「あの研修で習ったとおりに作った肥料は効くね!お陰でいつもの倍のイモが採れたよ」というようなポジティブなフィードバックが得られるようなことでC/Pは自信を持ったりするものです。C/Pのオーナーシップが醸成されているとすれば、日本側としては、C/Pが主体的に考え、判断しつつ、プロジェクト活動を実施し継続できるよう手助けをする、ということになります。
となると、プロジェクトの終盤に共に歩むパートナーのイメージは、ずばりコーチです。コーチは決して自らプレーしません、というかできません(希に選手兼コーチ、というケースがありますが)。コーチは主役である選手(C/P)が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、メンタル&テクニカルなアドバイスを提供します。このようにコーチとは黒子に徹するものだと思います。
日本のサッカーにおいて、パスを受けて点を取るストライカーよりも、パスを出す側の人材が豊富と言われています。つまり自分が主役になるというよりは「相手を活かす」とことが日本人には得意なようです(或いはそこに価値を見出している)。相手を活かすためには相手をよく見る必要がありますが、そうした点は技術協力における高い評価にもつながっているのではないかと思っています。
とはいえ、コンサルタントが黒子に徹し、C/Pに活動を任せるというのも結構ヤキモキするものです。適度にモニタリングしつつ、でも彼らのやる気を削ぐ程には過度にならないよう、クリティカルなポイントにおけるモレ・ズレだけは見逃さないという塩梅が難しいのです。プロジェクト初期、中期よりもプロジェクト終盤の舵取りは、難易度が高いのではないでしょうか。
共に歩むパートナーの話をするつもりが、すっかり技プロのマネジメントの話しになってしまいました。ふり返って思うのは、共に歩むパートナー、とはいえども立場は違うし、役割も異なります。指導する側される側、業務を発注する側される側、だったりします。そうした立場や役割の違いがあっても、共に歩むパートナー、となるポイントは何なのか。それは一つの目標達成に向けて、それぞれの役割をしっかり果たし、信頼できる存在になる、ということではないでしょうか。そしてその際に、決してパートナーを置き去りにせず、適切なコミュニケーションによる相互理解をベースに仕事をする、ということが重要だと思います。
互いに「共に歩むパートナー」と思える関係となれることは、実は多くないのかもしれませんが、そうした関係のパートナーとなら、仕事がドンドン進みますね。この原稿を書いて、共に歩むパートナーが一人でも多く得られるよう、心を込めて仕事をしていきたいと思いました。