社長エッセイ

第5期を迎えて

 KMCのこれからの課題は「組織としての充実度を高める」ことであると、今年の初め頃から皆さんに伝えてきました。特に先日、第5期を迎えるにあたって皆さんに送ったメールの中では、KMCは満3年を経過した、ここで良いところはさらに伸ばし、見直すべきところは見直す方向で、工夫しつつさらに組織を発展させたい、今期はそのための一つの転機にしたい、と書きました。今回はそれをもう少し詳しく説明します。

 最近何かの本で、設立後10 年間持つ企業は10%程度に過ぎない、という話が載っていました。数字の信憑性は確認していませんが、大切なことは、そうしたことを危機意識として持ち、工夫しながら企業活動をしていかなければ、つまりただ淡々とやっていたのでは、企業は長続きしないものだ、ということです。ただその一方で、チャレンジする部分が大きくなればなるほど、様々な面からリスクも大きくなってくる、ということも事実ですし、細々ながら3年間やってきた私の実感でもあります。成長のための工夫やチャレンジとリスクのバランスをどう取りながら、組織を充実させ発展させていくか、その足がかりをどうつかむのか、それが今のKMCや私、そして皆さんにも与えられた大きな課題だと考えています。

 私の中では、個人としても組織としても、変えられない(妥協できない)「あり方」というものがあります。つまり、これは、私自身が現役でいる限り、またKMCを引っ張っている存在である限り変わらない部分です。それを改めて書けば、一つは「これからは組織と言うより社員一人一人の力量が問われていく時代になる」ということです。時代とともに競争のあり方が変化し、企業の規模や過去の実績より、むしろ企業活動の社会的意義や個性、実績の本質的部分(例えば、KMCであれば途上国の人々の暮らしの改善などにどのくらい役立っているか)などに価値が求められる時代、価値で勝負する時代になってきたと感じています。そのためには、組織が集団でワンパターンの活動をするのではなく、社員それぞれが考え行動する組織、そうした社員によって集団としての力を発揮できる組織がより評価され、生き残っていける可能性が高いはずです。つまり組織は、これまでのように、「寄らば大樹」的に個人を守ってくれる存在、頼るための存在ではなく、個々の実力やクリエイティブさで組織を引っ張り、その結果個々がお互いにメリットを享受するための存在、ということです。

 KMCで言えば、コンサルタント企業として、それぞれの社員がある意味で「職人」ですし、またそうでなければなりません。一人一人が、おいしいラーメンを作って提供できるラーメン職人、それでお客さんから喜ばれ、かつきちんと収入も得られるような職人と全く変わりがありません。自分はどんな味のラーメンが作れるのか、それは人によって違うでしょうが、少なくとも、人においしいと思ってもらえるラーメン、また食べに来たいなあと思ってもらえるラーメンを作れなければなりません。つまり、KMCの社員一人一人が手に技術を持った個人商店である訳ですが、そうした人たちが組織として集まることで、さらにおいしいラーメンが作れるようになる、さらにお客さんを呼ぶことができる、それによってより多くのお客さんに喜んでもらえる、その結果、売上(収入)も着実に上がる、ということです。それが、私が会社を立ち上げた最も大きな動機ですし、KMCの最も大きな存在意義だと考えています。

 個人の立場で「会社」というものを考えてみます。個々にとっては、生き方や仕事の選び方などの選択肢が広がり、個人の自由がより尊重される時代、尊重されなければいけない時代になりました。会社が個人に仕事の内容ややり方を押し付けるのではなく、個人の選択を会社ができるだけ受け入れるようにする、つまり会社が変化できるよう体制や規則をできるだけ柔軟にしておく、ということだと思います。随分と贅沢な世の中になってきた訳ですが、その一方で、会社の形がどうであれ、個々がそれぞれのラーメンの味で勝負しなければならないという厳しい状況には変わりない訳で、結局はそれがどうしたら可能になるのかを最優先に考えて個々の社員と会社がそれぞれのあり方を選択すればよいことだろうと考えています。

 例えば、田村さんがスリランカに住んでいても、池田さんが在宅勤務をしても、あるいはSVや専門家で長期間海外に赴任する社員がいても、それでラーメン作りの腕が上がる、個々の色々な事情から最善の選択だと思えるのであれば、まずそれを優先し会社のあり方はそれから考える、ということです。もちろん、選んだ以上その責任は個人が負わなくてはなりませんし、そうした「選択の自由と責任」をきちんと理解できる大人の人たちだけが、こうした会社の存在を可能にします。つまりプロフェッショナリズムの精神を持った会社です。これも私が考える「会社のあるべき姿」の一つです。

 では、そうした会社が、組織としてどうしたら充実していけるのでしょうか。まず、個人にとって会社を選ぶ基準を考えてみます。人は会社に何らかの価値や魅力を感じているから社員として集まる訳で、それを満たせない限り組織の充実はできない、と考えるからです。まずは、その会社にいて「食っていけるかどうか」が、誰にとっても最も大きな基準であることは間違いありませんね。ラーメン屋をやるのはいいけど、自分の腕が上がっていくだろうか、お客を呼べるだろうか、それにより本当に自立できるだろうか、それを会社が手伝ってくれるだろうか、ということでしょう。組織を頼らない、プロフェッショナリズムなどと言いつつも、実は避けられない本音でしょうし、だからこそ会社を作って集まる大きな動機ともなり得ることなのだと思います。ただし、この時点で大切なことは、「どうしてもラーメン屋として自立するのだ」という意志を持った人たちが集まる、ということです。それがないとそもそも組織を作る意味がなくなります。

 そして、それが満たされた上で、さらには「自分のやりたいことができるか」、「より大きな収入が得られるか」、あるいは「楽チンな仕事ができるか」の3つの基準があると思います。これは人によって大きく違います。このうち、初めの2つは「自己実現ができるかどうか」ということでもありますね。もう一つの、「楽チンな仕事」というのはKMCにいる限り無理でしょうが、これを言い換えて「自分の生活を優先させつつ仕事ができるか」とすれば、現実的にはなるでしょう。そして、さらにもう一つ、「自分が人から認められる仕事、喜ばれる仕事ができるか」が、実は誰でもが持っている究極的な「自己実現」の基準だということです。KMCにおいても、こうしたことを満たすことのできる会社でなければならない、それがなければ組織としての価値や魅力に乏しく充実していかない、ということです。

 上に挙げた基準は、「楽チンな仕事」を除けば全て私の個人的な基準でもあります。ラーメン屋の部分を私に当てはめて考えれば、「コンサルタント」、それも「極めて高いプロフェッショナル意識を持った超一流のコンサルタント」を実現することが、私の夢であり、自己実現を果たすことになります。そして、そうした夢と並行して、私の中には「地域づくり、人づくり、組織づくり」に貢献したいという想いもあります。これも私の自己実現に繋がるものです。つまり、こうしたことができなければ、私にとってKMCは意味を持たないことになります。KMCの社員として、皆さんも恐らく同じ想いを持っているのだろうと思っています。

 そうしたことを考えつつ、最近感じているのは、KMCを組織として充実させるためには、「地域・人・組織づくり」に貢献するための一つの手段として「コンサルタント」を考えるべきなのかもしれない、ということです。私は個人として「コンサルタント」であり続けるでしょうし、「地域・人・組織づくり」に関わっていこうとするでしょう。ただ、組織としては、排他的な「コンサルタント集団」として存在し、ぎりぎりと腕を磨いていこうとするよりも、「地域・人・組織づくりへの貢献ができる集団」を志向していくべきなのかもしれないということです。

 もちろん、コンサルティング業がKMCの軸であり、社員間で切磋琢磨していこうとすることはこれまでと変わりませんが、それだけにこだわらず、同じ志向を持ち、かつ何か「職人としての売り」がある人もKMCの社員として考えても良いのではないか、ということです。つまり、ラーメン屋だけの集団ではなく、その中に大工や花屋がいても良い、それによって組織がより充実し、私を含めた社員が組織に求める基準により近づくことができるかもしれない、また集団が持つインパクトの大きさによって個々の自己実現が図られるかもしれない、その結果、地域の発展により貢献できれば良いのではないか、と考えているということです。そうした人達を一言でなんと呼ぶのか分かりませんが、プロの「アドバイザー(指導者)」とでも考えれば良いのかと思っています。それが私の書いた「転機」という意味です。

 それでは具体的にどうしようと考えているのか、一言で書けば、「組織の視野を広げたい」ということです。それには今のところ以下の3つがあると考えています。

1.人材の拡大:
 上に書いたように、地域づくり、人づくり、組織づくりに、様々な立場からプロフェッショナルの指導者として関わることのできる人材を社員として考えていくということです。これまで私なりにプロのコンサルタントを社員として求めてきましたし、これからもその気持ちは同じですが、正直なところ、これまで気に入った人材がそれ程いる訳ではありませんでした。たまにそうした人がいても、そうそう簡単にKMCに来てくれる訳ではありません。コンサルタントじゃないから、ということで断った人も結構いました。そのため、どうやら、コンサルタントだけにこだわるとKMCの周りに高い壁を作ることになってしまう、KMCの人的資源はなかなか充実しないと感じています。したがって、具体的には、就業規則にある社員区分でいうところの「事業担当社員」の採用などを考えています。その意味では、もはや「どうしてもラーメン屋として自立するのだ」という意志ではなく、「どうしても自身の力によって地域・人・組織づくりに貢献するのだ」という意志を持った人たちを求めていく、ということです。もちろん、このようにKMCと志向が同じで、かつKMC が必要とするプロフェッショナリズムを理解してもらわないとならないので、そう簡単に人材が確保できるかどうかは分かりませんが、組織の人材の厚みという点からも、もう少し広い視野で人材を求めていくことは必要なことだと思っています。

2.活動の拡大:
 コンサルティングがKMC の活動の中心であることはこれからも変わらないと書きました。ただ、例えば、これまで専門家やSV業務は本格的なコンサルティング業務を始めるための準備活動、実地訓練として考えていましたが、これからは、あまりそうしたこだわりは持たないようにしようと考えています。地域・人・組織づくりに関わっていくのであれば、どういう活動をするのか社員の志向をより優先させたいということです。また、それ以外にも、日本の地域開発に関わる活動、途上国の地域開発や農村の人々に役立つ活動をKMCの活動として幅広く考えていきたいと思っています。例えばの話ですが、日本人を途上国のエコツアーに連れて行くような旅行企画、途上国からの有機産品や民芸品の輸入、などもKMC活動として考えられるということです。社内でそうした活動を持つことによって、その結果、多くの社員が「食っていける」ことにつながるかもしれませんし、様々な活動を通じて地域づくりに関わっていけることは、それ自体やりがいがあることだろうと思います。もちろん、言うは易く行うは難し、営利企業としてやるからには遊びではできません。そして、それを担当する社員の能力やコミットメントに大きく左右されることは、これまでと何ら変わりはありません。それを承知で、何とか工夫しながら活動の幅を広げていきたいと考えているということです。

3.拠点の拡大:
 まず、海外拠点を持つことで、本業であるコンサルティングの仕事をより確保しやすくしたい、という気持ちがあります。KMCの今の実態は、JICA 業務を役務か他社の補強、あるいは専門家業務の形で受けることがほとんどです。これからはもう少し現地にネットワークを持って、例えば、国際機関やJICA、JBICの現地事務所などが発注する仕事を取りやすくしたいということです。その背景にはJICAの現地事務所への権限委譲の流れがありますし、やはり案件形成から関わって我々の志向する案件を手がけていきたいという想いがあります。これによって、やはり「食っていける」可能性も増えるでしょうし、若い人材が活躍できる場も確保できるのではないかと思っています。さらには、上で述べたように、コンサルティング以外の活動の拡大を図るため、海外での拠点が必要となるかもしれないと考えています。拠点を持つことは、もちろん費用がかかることですし、費用ばかりで何も生み出さなければ意味がありませんが、これからはそのための経費を予算として確保し、どうすれば効率的に効果をあげることができるか工夫しながら活用していきたいと考えています。

 以上、これが第5 期を迎えて私が考えている、KMCを充実させるための転機のしかけです。正直、やってみないことにはどうなるか私にも分かりませんが、こうした方針でこれからしばらくの間、動いていきたいと考えています。また、具体的になればその都度報告していきますし、皆さんからも何かアイデア、意見などあれば是非知らせていただくようお願いします。