社長エッセイ

「良い組織」と「ダメな組織」

 最近読んだ本の中に、「カルロス・ゴーン経営を語る」(カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス著、高野優訳、日経ビジネス人文庫)と、「心は変えられる」(原英次郎著、ダイヤモンド社)の2冊があります。前者はフランスルノーから日産自動車の再建に乗り込んできたゴーン氏の物語、後者にはJALの再建にあたった稲盛和夫氏の手法やその根底となる考え方が中心に書かれています。対象となった両社とも、日本を代表する老舗企業でありながら、経営に失敗し、倒産寸前あるいは倒産してしまったが、外部からトップを招聘し、「組織内部を変えた」ことで短期間に奇跡的な回復を遂げた、という共通項があります。この2冊からは、大企業に限らず「会社組織」というものは、「こうすればダメになる」、「こうすれば良くなる」、といった根源的なメッセージが伝わってくるのを感じました。

 日産は、ルノーとの資本提携が始まる1999年までの8年間で7回の赤字、実に 2兆1000億円もの負債を抱えていましたが、その2年後の2001年には黒字化し、負債も2003年には完済しました。一方のJALは倒産する2010年1月までの7年間で3回の赤字、負債総額は2兆4000億円でしたが、稲盛氏が会長として乗り込んでから、2年7か月という短期間で再上場を果たしています。どちらも驚異的、という言葉では単純に言い表せないほどすごいことをやった人たちだなあ、と思います。でも、その根本的な対処方法はどちらも同じ、本を読むうちにそれが見えてきたように思いました。

 ゴーン氏によれば、日産の問題は次の5つの原因によって引き起こされています。①収益性に対する意識の低さ、②ユーザー無視のデザイン、③緊張感・危機感の欠如、④組織内のセクショナリズム、⑤ビジョンや長期戦略の欠如。どれも読んでみれば当然と思いますね。でも頭で分かっていても行動できるかどうかは別の話。特にトップがそうした問題の種を放置し始めると、誰も責任感を覚えず、やがて組織は悲惨な状態になる、という良い例だと思いました。私たちも、少なくともこうした「ダメになる原因」をつくらないよう意識することが大切で、もしそれが少しでも垣間見えるようなことになったら、すぐにアクションを取るよう肝に銘じておかなければなりません。

 日産は提携当時、もういつ倒産してもおかしくない状態で、ゴーン氏は乗り込んですぐに、「問題の解決策は何より内部にある、内部を変えなければだめだ」との思いを強くしたそうです。そのためまず相当な時間をかけて、ルノーから日産に乗り込む社員を人選しました。「能力と熱意だけではなく、文化的に開かれた精神の持ち主であること」を条件に選び、その上で「日産を再生させるのは日産の人々、(ルノーの社員は)ただその手伝いをするだけ。日産の人々を受け入れるのではなく、日産の人々から受入れられなければならない」と主張しました。その甲斐があり、乗り込んできたルノーの社員と受け入れた日産の社員の間には精神的なつながり、ある特別な関係が生まれたそうです。このあたり、私たちが途上国で仕事をする上でもとても大切な、共感できる視点だと思います。

 ルノー、日産の共同作業を通じて、1999年10月に「日産リバイバル・プラン」が発表され、翌2000年4月から実行に移されます。人員削減、工場閉鎖など多くの痛みや犠牲を伴う計画でしたが、トップが不退転の決意を示し、各部門の中間管理職がチームを組んで社内に計画を浸透させたことで、組織全体に意識改革が起こり、このプランは見事に成功します。重要だったことは、この「意識改革」。会社が再建の道筋をはっきり示すことで、社員の仕事に対するやる気と情熱をよみがえらせ、仕事に躍動感を与えて勢いをつけた、と書かれています。これまでの日産では、「社員のモチベーションを高める」なんてことは全く行われてこなかったそうです。今どきそんな会社があるのが不思議ですが、事実のようです。そこでゴーン氏は、日産が進む方向性について社員たちに詳しい説明をし、色々な階層、地域、職種の社員とのコミュニケーションを積極的にとった、ということです。トップのこうした対話姿勢と明確なメッセージ、組織内の縦割りを超えた努力など、様々な試みが組織文化を変えた、良い事例といえると思います。

 岡部